SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……みくっ……悪いやつって……もしかして前に話してくれた……みくを殴って殺そうとした人?」
たどたどしい湧人の口調。
「うん、そう」
「……っ……なんでっ……そんな、どうしてみくが監禁なんて……」
「…………」
「……ねえ、一体何があったの? ……もしかして……相当ひどい事されたの?」
「…………」
……あ、れ……
なんだか少し悲しい気持ち。
話そうとすればするほど口が重くて開かない。
「……ふう〜、」
あたしはゆっくり深呼吸する。
「……みく……?」
「……ごめん、今度、話す」
湧人の質問を断った。
「「…………」」
長い沈黙……
後ろから戸惑う湧人の気配を感じる。
「……だから、最初の話……」
あたしは再び話を戻した。
「地下で8年、D.S.Pで4年」
「…………」
「小学二年から、今、高校一年生。勉強さっぱり分からない」
「…………」
「勉強以外も、ルール、マナー、常識。マニュアルあるけどあんまり……」
「…………」
「一樹が言ってた。後遺症もあるのかも。鈍くて、なかなか頭に入らなくて……」
「…………」
「……だから、」
あたしはクルッと振り返る。
「分からないの、聞いてもいい? 湧人いろいろ知ってるから、あたし、いっぱい聞きたいんだ。 分からないこと、今からでも覚えようと思うんだ」
銀の瞳を見つめて言った。
「……あ、」
湧人は小さく声をもらす。
「もちろん」
少しだけ切ない表情で、それでも笑ってあたしに答えた。
「ありがとう」
あたしも笑うと湧人は照れたような顔をする。
夕陽が部屋に差し込んで、全てを赤く色付けた。