SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……奏太!」
「…………」
「久しぶり。どうしたの?」
「……ああ」
奏太はゆっくり壁から背を離す。
少し周りを警戒しながら、あたしの前にやってきた。
「ほら」
差し出されるボストンバッグ。
「忘れ物だ。いつまでたっても取りに来ねえし届けに来た」
「……あ、」
そういえばすっかり忘れてた。
あたし、扇龍に荷物を置いたままだった。
「ありがとう」
あたしはバックを受け取る。すると、
「……っ!」
奏太は何故かハッとする。
じっとあたしの手を見つめた。
「……奏太?」
「……ハア〜、」
前髪をかきあげ、奏太は大きく息を吐く。
「バッグは口実だ。お前にちょっと話がある」
強い視線をあたしに向けた。
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マンションから少し離れた公園。
人目を避けるように、あたしたちは奥のベンチに座ってる。
——パラ……
植え込みの木から葉っぱが落ちて、あたしの足もとに散らばった。
「……ずいぶんだな……」
おもむろに奏太が口を開く。
「さよならの挨拶もなくそれっきりかよ」
「……え?」
「オレが来なかったら、もう会わないつもりだったのか?」
こちらには目を向けず、前を向いたまま聞いてきた。
……? さよなら? 会わない?
「ちがう。さよならじゃない。また会おう、思ってた」
「…………」
奏太は少し沈黙する。
「……冗談だ。そう簡単にいかねえ事ぐらい分かっている」
フイッと顔を横にそむけた。