SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「 あっ、イツキッ! なにやってるう⁉︎」


黒木の裏返った声と共に室内もどよめく。

あたしの頭の上、一樹はゆっくり口を開いた。



「長期に渡る拘禁状況に置かれた場合、人は感情表出の乏しさ、特有の鈍さが残ります。それに加え、美空は自由に発言する事も許されなかった。うまく話せなくて当然です 」


「……んん、ああ、そうか 」


一ノ瀬が言葉に詰まる。

一樹は体を離すと、今度は優しくあたしの額にふれた。


「 それにしても美空は強い。あの状況下でも錯乱状態にならず、ただ一人、みずから自己奪還を図った 」


……強い?


……あたしが?


伯耆坊たちには弱いって言われたのに。


「……心がですよ 」


一樹が笑う。

メガネの奥の瞳が優しい。


「 一ノ瀬さん。美空へは私を通してか、もしくはイエス、ノーぐらいの簡単な質問形式にするのが良いかと。 それと、美空について、私も意識のない間は実はいろいろ…… 」


「 んあ゛~っっ!!」


黒木の大声に、また体がビクッとなる。


……さわがしい。


「 そうだ! イツキい~、おまえさっき変なコト言ってたよなぁ~? なんとかエネルギーがど~とかよお。そもそも、なんで万里が“みく” なんだ? なあ~イツキい~っ!!」


「 黒木っ! 少しは静かに出来んのか! 一樹が困っているだろう!」


「……ハア、」


一樹はひとつ、ため息をついた。
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