SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「……遅いよ……」

——シュン、

あたしは奏太のバリアーをほどいた。


「……? なんだ、急に……」


「うん。だってバリアーがジャマするから」


「……は?」


「聞こえる? 奏太もピーって音」


「……⁉︎」


奏太の眉間にシワが寄る。


「ここからは一樹が話すから」


「おまえ、まだそんな事……」


「一樹ごめん。あんまり遅いから、また奏太にいろいろ喋っちゃった」


「だからいい加減に——」

〈 “ 美空は嘘など言っていませんよ ” 〉


「——!」


〈 “ 全て事実を話しているのです ” 〉


語りかけるように一樹は静かに話し始めた。


「……っ、なんだ?」


目を見開き、奏太はその身をこわばらせる。


「……どういう事だ! 頭ん中、声が……」


探るようにキョロキョロ辺りを見回した。


〈 “ ……久しぶりですね、奏太。 あなたには本当に申し訳ない……” 〉


「……っ……ウソだろ、なんでアニキの声が……!」


〈 “ わたしがあなたの頭の中に直接話しているのですよ ” 〉


「……っ、」


〈 “ あえて言わなかったのですが、わたしは複数の感応能力を使う事が出来るのです。この遠距離会話も、わたしの能力のうちの一つです ”〉


「……っ!」


——ガッ!


「おいッ!!」


奏太があたしの胸ぐらをつかむ。


「……⁉︎」


「美空ッ! さてはおまえかッ! よくもこんなタチの悪いイタズラを!」


強くつかまれ、あたしの首がきつく絞まった。


「……うっ!」


〈 “ やめなさい奏太! わたしと約束したはずです! 女性にはけして暴力は振るわないと! あの虹の谷の丘で! ルールを忘れたのですか!” 〉


「……っ!!」


ビクッと奏太の肩が跳ねる。


「……な、んで……」


奏太はスルリと手を離した。
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