SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

〈 “ ……やはり混乱させてしまいますね。でも、どうか落ち着いて聞いて欲しいのです ” 〉


「……違う、うそだ……アニキはもう、」


〈 “ 奏太、わたしは ” 〉


「……ちがう。アニキは死んだんだ……」


ふるふると奏太は首を横に振る。


"ジワ〜ッ"


……?

あたしはジャケットから黒い何かを取り出した。


なんだ、これ?

黒いレザーのリストバンド?

しかも所々、何故か歯型がついている。


「……っ!」


それを見た途端、サッと奏太の顔色が変わった。


「何故おまえがこれをっ!」


手に取り、確かめるように歯型の部分を指でなぞる。


「……?」


「このリストバンドは、オレがっ……」


奏太は声を詰まらせる。


〈 “ ええ。それは、あなたがわたしにプレゼントしてくれたものですね ” 〉


「……っ!」


〈 “ 思いがけない贈り物でした。まさか父の日にそれを戴けるとは……” 〉


「……っ!!」


〈 “ しばらく身に付けていましたが、あなたが癇癪を起こす度にそれに噛みつくので……。その後は大切に引き出しの中へとしまっていました…… ” 〉


懐かしむように一樹は声をほころばせた。


〈 “ 唯一、わたしが家から持ち出したものです。それだけはどうしてもそばに置いておきたかったものですから……” 〉


「……っ!!」


〈 “ まったく、わたしも策士ですね。美空の行動を予期し、わざとそれを忍ばせ、ジャケットを着るようにと行動操作を……” 〉


……え。


「そう、だったの?」


〈 “……すみません ” 〉


「……っ……そんなっ! 本当なのかっ! 本当にアニキは生きてっ……」


〈 “ ええ。わたしは生きています ” 〉


「————ッ!!」


衝撃が奏太の体を突き抜ける。

硬直したまま、奏太は某然と立ち尽くした……
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