SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「…………」


奏太は何も喋らない。


〈 “…………” 〉

 
一樹も言葉を途切らせる。

通信を繋いだまま、こちらの様子を伺っている。


しばらく無言の時が流れ……


——ズサ……


奏太がその場に崩れ落ちた。


「…………」


うつむき、力なく地面に膝をついている……

やがて、


「……よかった……」


奏太はぽつり、言葉をこぼした。


「……オレ、ずっと……アニキ……」


奏太は肩を震わせる。


〈 “……そう、た……? ” 〉


「オレの、せえだって……思っ……」


〈 “…………” 〉


「でもマジなんだろ……? マジなんだよな? アニキ、マジでちゃんと生きてんだよな?」


〈 “……ええ、” 〉


「……ハアァァ〜、」


奏太の潤んだ瞳が空を向く。


「……良かった……ほんと良かった………」


涙ながらに奏太は唇を噛み締めた。


〈 “……そうた……? ” 〉


戸惑ったような一樹の声。


「……なあ、アニキ、どこいんだよ……」


奏太はぐるり視線を動かす。


〈 “…………” 〉


「……顔、見せてくれよ……」


〈 “…………” 〉


「……なあ、アニキ……」


〈 “……奏太、わたしは……” 〉


「……うん?」


〈 “ わたしはあなたを騙していたのですよ ” 〉


「……そんなんいいって。だって、生きててくれたんだろ……?」


〈 “……っ…… ” 〉


「会いてえよアニキ……頼むから顔見せてくれよ……帰って来てくれよ……」


〈 “……っ…… ” 〉


一樹は少し言葉に詰まる。


〈 “いけません ” 〉


そう、小さくつぶやいた。
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