SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「……なんでだよ……」


〈 “ わたしにそんな資格はありません。それに世間ではもう、わたしは死んだ事になっているのですよ…… ” 〉


「そんなん知らねぇ。だってアニキ、生きてんじゃん……」


〈 “……ですから……” 〉


「家の近所じゃヤバいって事か? ならどっか遠くならいいのか? 誰もアニキを知らねえ場所なら……」


〈 “ そうではなく ” 〉


「……じゃあなんだよ……」


〈 “……六年前の事を忘れたのですか。わたしといれば、またどんな噂が立つか分かりません。あなたに危害が及ばないとも……” 〉


「オレは……! オレはもう誰にも負けねえ! 六年前のようにはならねえ!」


〈 “…………” 〉


「……なあアニキ、頼むよ……オレんとこ戻って来てくれよ……」


〈 “……っ…… ” 〉


「……それとも、こんなオレとは会いたくねえ? オレが道踏み外してっから? アニキ嫌いだったもんな、暴走族とか……」


〈 “ 違います! けしてそうでは…… ” 〉


「じゃあ何でだよっ!」


奏太はキッと空を睨む。

一樹の次の言葉を待った……



〈 “ 異端者はやはり異端者なのです。特異な力を持つ者とそうでない者が一緒にいれば……いずれは歪みが出るものです……” 〉


「……なんだよそれ。さっぱり分かんねえよ」


〈 “ もうリスクを負わせたくはないのです。それがあなたの為です ” 〉


「……オレの為って……」


〈 “……奏太。わたしがこのような事を言える立場ではありませんが……どうかもう少し自分を大切に、危険に身を投じるような真似は慎んで頂きたい……” 〉


「……は?」


〈 “ あなたは強い人です。周りに流されなくても、自らの意志で自分の道を切り開いてゆけるはずです ” 〉


「……なに言って……」


〈 “ そしてこれだけは忘れないでいて下さい。わたしは生涯あなたの味方です。いつも心に思っています……” 〉


「……アニキ……?」


〈 “ 心穏やかに……あなたはあなたの幸せな未来を生きて下さい……” 〉


「……おい! アニキ!」


〈 “ もう一度あなたと話せて良かった……どうかいつまでもお元気で……” 〉


「待ってくれよ! アニキ!!」


——ピッ……


急に頭の中が静かになる。

一樹は奏太との遠距離会話を終わらせた。
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