SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……あ、れ。
急に熱が冷めたようなその態度。
どんより重い空気が漂ってる。
「特異な力を持つ者とそうでない者か。そんな風に線引きされると……辛いな」
「……? どういうこと?」
「さっきのアニキの話だ。言ってただろうが、異端者は異端者だって」
「ごめん。難しすぎて、一樹の話、分からなかった」
「……おまえなぁ……」
「ねえ、どうして一樹は難しい言葉を使うの?」
「……っ、知るか! ……それが、アニキだ」
——ギュ……
さりげなく手が組み直される。
「……ふうん……」
返事をしながら、あたしはその手に視線を落とした。
あたしより大きな奏太の手……
ゴツゴツとした手には、細かな古い傷跡が見て取れる。
もがき、苦しみ、傷付きながら、がむしゃらに生きてきた奏太の証しを見たような気がした。
「……それで? 一樹は何て言ってたの?」
「……あ?」
「二人は会うの約束なの?」
「……おまえマジ分かってねえのかよ……」
「うん?」
「拒否ってただろうが。それがオレの為だって。アニキはもうオレと会うつもりはないらしい」
「……え?」
「さっきはオレも……つい勢いで喋っちまったが、冷静に考えるとそれが一番いいのかもな。
あれから六年も経つんだ……
オレにはオレの生き方があって、アニキはアニキの生き方がある。今さら難しい事ぐらい分かってる」
「…………」
「……だから、もう会わねぇっていうアニキの選択は正しいと思う。 昔っからそうだ、いつだってアニキの言う事は正しい。
オレは……アニキが生きてるって分かっただけで、もう十分だ…… 」
頷きながら奏太は喋る。
あえて口にする事で、自分に言い聞かせているようだった。
「…………」
ウソと、我慢と、あきらめと……
奏太の心の苦しさが伝わり、あたしは無性にモヤモヤする。