SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「その通りだ。やっぱり、あたしは分からない」
「…………」
「でも、今の、奏太の気持ちは分かるんだ」
「……は?」
「ゴチャついて気持ち悪いっていう奏太の気持ちは分かる。だって、あたしも記憶操作されてたから……」
「……!」
「悪いやつに何度も何度もかけられた。頭がいっぱいゴチャゴチャして、気持ち悪くて、吐いたり倒れたり……」
「……っ、」
「でも、あたしと奏太じゃ違うんだ。あたしは奏太と逆だった」
「……逆?」
「あたしは生きてるの記憶操作だった。本当は死んでたのに、お父さんとお母さん……」
「……っ!」
「奏太は違う! 会えるんだ! 一樹は生きてる! 死んでない!」
「……っ、」
「諦めちゃだめだ! がんばったら会えるんだ! 奏太なら出来る! まずはヤクザならないケジメつけて恩の関係ぶっ壊してちゃんと死んだ気になれば今度は奏太が死ねばいいっ!!」
途中から何を言ってるか分からない……
ESPセンサーが感知して、言葉が勝手に口から出ていた。
「……っ……」
あっけに取られた表情で、奏太はじーっとあたしを見ている。
そのうち、
「……んだよ、メチャクチャ言いやがって……」
ゆっくり前髪をかきあげた。
「……ひでえな。なんだよ死ねって……」
「……あ〜、それは……」
「分かってる。不思議と今のは伝わった。死ぬぐらいの覚悟でケジメつけろって言いたかったんだろ?」
「……う、ん?」
「……ったく、簡単に言ってくれるよな。ヤクザなんてそんな甘い世界じゃねえのに」
「……?」
「ましてオレには義理がある。大熊の知り合いにはよく面倒見てもらったし、今じゃ幹部の娘とも付き合いがある。裏切るような真似したら本当に命が……」
そこまで言って口ごもる。
「……でも、アニキの言う事は守れるか……」
「……?」
「言ってたもんなアニキ。危険に身を投じるなって。自らの意志で道を切り開けって」
奏太の瞳に力が戻る。