SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「……あたしが言ったんだ。だから奏太……」


「「……?」」


「奏太は弟なんだ。一樹言ってたんだ、宝物だって」


「「……?」」


「ケジメは分かった。でも、奏太が死んだら困るんだ」


「「…………」」


「約束したんだ、連れて行くって。会わせるって、だから……」


——ガタンッ!


「奏太が死んだら困るんだっ!」


大きな声であたしは叫んだ。


「「「「……っっ……」」」」

「おいっ! 落ち着けっ!」
「さすがに大熊も命までは取るものか!」


「いやだ! だめだ! 絶対困るっ!」


——ダダッ……!


「おいっ!」
「美空っ!」


あたしは走り出していた。

焦るみんなを振り切って、奏太の所へ急いで向かった。


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"ジジジ "


「……ハアッ、ハアッ、」


……ここ?

何台もの廃車が転がる工場跡地。

暗闇の中、建物から薄い明かりがもれている。


「————あッ……てんだッ……!」


……?

かすかに聞こえる人の声。

あたしは少し開いた扉から中の様子を伺った。


「……!」


目にした途端、体がこわばる。

そこには、もうすでに殴られ傷付き、ボロボロになった奏太が大熊のヤクザ数人に取り囲まれていた。


「……ません、どうか……」


床に手をつき、奏太は深く頭を下げている。


——カチッ

「……フゥ〜」


少し離れた所には、昨日視たブルドッグ顔のおじさんがタバコをふかしている。

そして壁際にもう一人、

グレーのスーツを着たその若い男は、壁にもたれながら冷めた目つきで奏太を見ていた。
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