SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……あ、 あの男……
グレーのスーツを着た男に見覚えがあった。
……そうだ、あいつ昨日も一緒にいた……
そういえば前に扇龍に来てたのもあの男……
——タ……
おもむろに男が動き出す。
グイッと奏太の髪を鷲掴みにすると、強引に顔を上に向かせた。
「……っ、」
「……なあ、俺が今までどれほどお前に目をかけてきたと思ってる。考え直すなら今のうちだ。今ならお前の戯言は全て聞かなかった事にしてやる」
「……柴田、さん……」
二人は少しのあいだ見つめ合う。
「……すみません。オレの意志は変わりません。オレはヤクザにはなれません」
奏太はきっぱりそう言った。
——バッ!
男は奏太を振り投げる。
「お前がそんな恩知らずだったとはなぁ」
「……っ、」
「あん時はまだ中1だったか? 自分の力を過信して、お前ずいぶん滅茶苦茶やってたっけな。
挙句、やべえ奴に手え出して集団リンチで袋叩きだ……偶然俺が見つけてなかったら殺されてたかもしれねえな」
「……っ、」
「強くなりてぇと悔しがるお前に、俺は喧嘩の仕方を一から教えた。
族の総長になれと助言したのもこの俺だ。喧嘩の腕を上げるには、何より実戦での場数がモノを言うからな……
まさしくその通り、扇龍の知名度が上がる度、お前はどんどん強くなった」
「……っ、」
「……なあ、あんまり失望させるなよ。俺がどんな思いでお前を犬飼さんに紹介したと思ってる。華さんには何て詫びを入れるつもりだ?」
「……っ、」
「……ハァ、」
男は着ていた上着とシャツを脱ぐ。
入れ墨だらけの上半身をあらわにした。
「見ろ」
しゃがみ込み、グイッと肩を前に出す。