SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

……あ。

男の肩の辺りには奏太と同じ黒い龍の絵があった。

奏太よりはずいぶん小さな龍だけど……



「俺とお前は兄弟の杯をくみ交わした仲なんだぞ! その証がこの龍だっ……忘れたのか! これがある限り俺達は切っても切れねえ縁なんだッ!」


男は感情を高ぶらせた。


「すみませんっ!」


奏太は土下座する。


「柴田さんには本当に感謝しています。ですがオレは……! オレも大事な人を失望させたくないんです!

無礼なのは分かっています。ですがこれ以上組に関わる事は出来ません。期待には応えられません……!」


「…………」


不穏な空気……

男はサッと立ち上がる。

ギリッと奥歯を噛みしめると、


————ガゴッ!!


おもいっきり奏太の顔を蹴り上げた。


「……ぐっ……」


「ザケんじゃねえッ! 俺はお前を本当の弟のように思ってきたんだぞッ! それを急に手の平返しやがってッ!」 


"ドゴッドゴッガッ! ……ドスッ!"


無抵抗の体に次々蹴りが浴びせられる。


……! ……奏太っ!


踏み込もうとあたしは扉に手をかける……

すると、


——ガバッ!


後ろから誰かに体を拘束され、素早くそこから引き離された。


「……⁉︎」


そのまま山積みになった廃車の裏まで連れて来られる……


「おいっ、美空っ!」
「お前何を考えてるんだ!」


拘束していたのは玉ちゃんと凌駕だった。

物陰から幹部たちも顔を出す。


「離して! 奏太が! あたし助けないと!」


「踏み込んだ所でどうなる!」
「余計に事を荒立てるだけだ!」


二人はあたしをつかんで離さない。
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