SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
ある日の長い一日

◇D.S.Pの劣等生



「あら、今日もいい天気ね 」


栗色の髪を揺らし、白衣を着た若い女、ユリがカラカラと窓を開ける。

うららかな春の陽射しとともに、たちまち部屋に新鮮な空気が流れ込んだ。


「 今日の気分はどう?」


そう言うとユリはあたしに笑顔を向ける。
大きなエクボと、目元のホクロが印象的だ。


「 あ~。いいよ、すごく 」


ハンドグリッパーを握り締めながら、あたしはユリに答える。

だいぶ、言葉は出てくるようになっていた。

説明、とかは苦手で、どうしてもチグハグな言葉になるんだけど……


「 そう? じゃあ、ここに座って?」


あたしは鏡の前に腰掛ける。


「 ふふ。うしろ、はねてるわよ 」


そう言うと、ユリはあたしの髪の毛をブラシで丁寧にとかしてゆく。

鎖骨まで伸びた髪には、ゆるいウエーブがかかっていた。


……しかし、

なんの科学変化だろう。

髪の色が“銀" なのだ。

もとは、黒髪だったはずなのに……
< 56 / 795 >

この作品をシェア

pagetop