SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
ある日の長い一日
◇D.S.Pの劣等生
「あら、今日もいい天気ね 」
栗色の髪を揺らし、白衣を着た若い女、ユリがカラカラと窓を開ける。
うららかな春の陽射しとともに、たちまち部屋に新鮮な空気が流れ込んだ。
「 今日の気分はどう?」
そう言うとユリはあたしに笑顔を向ける。
大きなエクボと、目元のホクロが印象的だ。
「 あ~。いいよ、すごく 」
ハンドグリッパーを握り締めながら、あたしはユリに答える。
だいぶ、言葉は出てくるようになっていた。
説明、とかは苦手で、どうしてもチグハグな言葉になるんだけど……
「 そう? じゃあ、ここに座って?」
あたしは鏡の前に腰掛ける。
「 ふふ。うしろ、はねてるわよ 」
そう言うと、ユリはあたしの髪の毛をブラシで丁寧にとかしてゆく。
鎖骨まで伸びた髪には、ゆるいウエーブがかかっていた。
……しかし、
なんの科学変化だろう。
髪の色が“銀" なのだ。
もとは、黒髪だったはずなのに……