SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「…………」
ハンドグリッパーを動かしながらあたしは鏡の中の自分を見る。
ユリのように笑ったり、困ったり、驚いたりはしない顔。
紅褐色の瞳は朝の光を受けて、鮮やかな赤となっていた。
「 だいぶ力もついてきたんじゃない?」
ユリはあたしの腕を見て言う。
「 あ~。だと、いいけど 」
二年前、骨と皮ばかりだった腕に、だいぶ筋力がついてきた。
このハンドグリッパーは一ノ瀬が握力だけは鍛えておけと置いていったものだ。
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「 じゃあ、また後でね 」
30分ほど話し、ユリは時計を確認するとあたしの部屋を出ていった。
「……ふう、」
戦闘用グローブをはめ、あたしも部屋をあとにする。