SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
それから、あたしたちはいろんな店を見て回った。
洋服屋さん、雑貨屋さん、アクセサリーショップ、ペットショップ……
ペットショップは何故か動物たちが大騒ぎするから、すぐに店を出てきたけど。
……あ。
一軒のお店の前で立ち止まる。
「……おいしそう……」
そのお店のショーケースには、色とりどりのケーキがたくさん並んでいた。
「……入るか?」
透が顔をのぞき込む。
ケーキ屋さんだけど、中は喫茶店のようになっていて、他にもメニューがたくさんある。
「…………」
あたしは少し黙り込む。
「いい。お金ないから」
パッとケーキから目をそらした。
「……は?」
「あたし、今18円しか持ってない」
「……18円⁉︎」
「うん」
「おまえ、よくそれで出歩けるな……」
透は呆れた顔をした。
「…………」
あたしはこの間の事を思い出す。
いつもあたしのサイフには39万円が入っていたんだけど、アンタには大金すぎるからと全部サヤが没収したのだ。
これからはサヤが毎月のおこづかいをくれるという事で、受け取ったのがこの18円。
自由に使えと言われていた金庫のお金も、今はサヤの命令で全く使えなくなっていた。
「……ハァ。 ほら、入るぞ」
透が、何故かあたしを店の中へと引っ張ってゆく。
「……え、だって……」
「それぐらいおごってやるよ」
何でもない顔で透はあたしを席に座らせた。
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「透、これ、おいしい」
あたしは目の前のケーキをパクパク食べる。
注文したのはチョコレートケーキ。
上にハートのチョコとイチゴと生クリームが乗ってるやつ。
「よくそんな甘ったるいの食えるよな」
甘いのが苦手な透は、ブラックコーヒーを飲みながら、あたしが食べるのをチラチラ見ていた。