SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「ありがとな」
透がポツリ、あたしに言う。
「うん?」
「薫の事。 アイツ、まるで人が変わったみてえに明るくなって……最近じゃ全然暗い顔見せねぇ」
「……あ〜、」
「ホント、ありがとな」
「別に、あたしは何も」
「何もしてなくねえだろ?」
「……え?」
「この間、薫に助言してたじゃねぇか。薫の今後の生き方、占い師が合ってんじゃねえかって……」
「……あ、」
「まったく。薫のやつ、受験勉強よりタロットばっか研究してる……」
透はフッと微笑んだ。
……そうだった。
このあいだ湧人の家で、薫も呼んでみんなで勉強会をやった。
その時あたしは薫に合った生き方をESPの感じるままに口にした。
それを聞いた薫は途端に瞳を輝かせたのだ。
「霊感なんて面倒なだけだと思ってた。でも、それを生かした生き方ってのもあるんだな」
「うん」
「少し前まではどうなる事かと思ってた……。 薫、変に自分を追い込んでたしな」
「……うん?」
「幼い頃から心に十字架背負ってんだ……アイツ」
影を落としたその表情……
透はどこか遠くを見つめてる。
「……どういう、こと?」
「……ああ、」
透はゆっくり話し始めた。
「……薫、まだ小さかった頃、誘拐されかけた事があったんだ」
「……え?」
「幸い、すぐに母さんが気付いて、薫は無事だったんだけどな……」
「……?」
「……母さんの方がな……」
「……母さん?」
「薫を守ろうと犯人に立ち向かって……挙句、薫をかばって死んだんだ」
「……!」