SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……運が悪かったんだ。相手は凶悪な犯罪者グループで……。 母さんも多少は武術の経験があったけど、とても太刀打ち出来る相手じゃなかった」
「…………」
“ ドクンドクンドクン ”
……あ、れ……
変に鼓動が早くなる。
得体の知れないザワザワ感が急に胸に押し寄せた。
「……薫、母さんが死んだのは自分のせいだって思ってる。そうやってずっと自分を責めてきたんだ……」
透はハア〜と息を吐く。
「…………」
あたしは何も言葉が出ないまま……
胸に迫る嫌な予感に一人首を傾けていた。
————————————
————————————
——そして帰り道。
「……なんか悪かったな」
「……え?」
「母さんの話。変にしんみりさせちまって」
「そんなこと、ない」
「そうか?」
透が顔をのぞき込む。
「じゃあ、なんでそんな顔してる……」
「……え?」
「さっきから全然喋んねーし、突然元気なくなったよな」
「…………」
「前のオレなら気付かなかったが、今は一緒にいるうち何となくな。微妙な感情の変化っつーのか……そういうの、少し分かるようになってきた」
ジッと見下ろすその瞳……
あたしは何故か身動き出来なくなる。
……と、
「まあ、透さま!」
高い声が耳に届いた。
……あ。
見れば買い物袋を下げたサヤがニコニコとそこへ立っている。