SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「「「……っ⁉︎」」」


「美空、話があるのですが」


腰をかがめて一樹が言う。


「……? なに?」


「出来れば二人で……あなたの部屋にお邪魔してもよろしいですか?」


「うん、いいよ」


すると、黒木とユリが慌てだす。


「オイオイっ!」
「一樹くんっ!」


「大丈夫ですよ。少し話をするだけですから」


「……いや〜、」
「……そうじゃなくて……」


困った顔の黒木とユリ。
うつむくサヤの様子を気にしている。


「美空にだけ挨拶出来ぬまま出国した事が、どうしても気になっていたのです。

わたしも奏太も、美空には大変世話になっています。遅れながら、きちんとその旨の報告をするのは当然だと思うのですが……」


「……ンン、そっかあ〜」
「……確かにそれもそうね〜」


ぎこちなく二人は頷いている。


……?


「行こう、一樹」


あたしは一樹を自分の部屋に連れていった。


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「……先程述べた通りです。慌ただしくドイツへ渡った事、あなたには本当に申し訳ない。出来ればきちんと挨拶をして行きたかったのですが……」


——カチャ、


あたしの部屋なのに、一樹がお茶の用意をしてくれる。

たちまち紅茶のいい香りが広がった。


「挨拶した。遠距離会話で」


「ちゃんと面と向かってですよ。行く前に奏太とここへ立ち寄ったのですが……」


「……ごめん、あたしがいなかった。たぶんしるしに呼ばれてた」


「そうでしたか。 ……どうぞ」


——カタン……


テーブルに置かれるティーカップ。


「ありがとう」


あたしはそれを手に取った。
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