SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「美空、しるしの役目の方はどうですか?」
「……うん?」
「何か変わった事はありませんか?」
「……あ〜、 別に」
サヤに言われた通り、あたしは余計な事は喋らない。
「そうですか」
一樹はひとくち紅茶を飲んだ。
「…………」
流れるような仕草……
あたしはおもわず見とれてしまう。
前から思っていたけど、一樹は一つ一つの動作がきれいだ。
殺風景だったこの部屋が急に華やかになった気がした。
「本当にあなたには何と言えば良いのやら……感謝してもしきれません……」
カップを置き、一樹が静かに話しだす。
「なにが?」
「わたしと奏太の事です。あなたの助けがなければ、わたしたちはけして元の兄弟に戻る事はなかったでしょう……」
……ああ、
「でも、あたしは別に。それが、しるしの役目だったから……」
「いいえ」
「……?」
「あなたがわたしを正したのです。固執したわたしの考えを、頑なであったその心を。あの時の、あなたの言葉が……」
「……え?」
「あの一件でよく思い知りました。自分がまだまだ未熟な人間だという事を。これからはもっと精進しなければなりませんね」
軽く眼鏡を押さえた後、
一樹はまっすぐあたしを見る……
「美空、改めて感謝申し上げます。兄弟の復縁の為、あなたがその身を削り尽力して下さった事……誠に、誠にありがとうございました。
あなたが繋いでくれた縁を大切に、これからは奏太共々その役目に恥じぬよう、懸命に努力して参るつもりです」
噛みしめるようにそう言った。