SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「…………」


……う〜ん?

あたしはぼーっと一樹を見る。


「……どうか、しましたか?」


「あ〜、うん。やっぱり難しいね。一樹の話」


「……⁉︎」


「なんとなくは、分かったけど」


すると一樹は苦笑した。


「すみません。確か以前にも同じような事を言われましたね」


「うん?」


「そういえば昔は奏太にもよく言われていました……」


「……ふうん」


「今は特に言わなくなった所を見ると……なにか感慨深いものがありますね……」


一樹の口からため息がもれる。

何か思い出しているのか、その目は遠くを見つめている……


「…………」


……奏太か。 ……元気かな……

ふと、眠そうな奏太の顔が思い浮かぶ。


「それで、どうなの?」


あたしは一樹に聞いてみた。


「……どう、とは?」


「奏太。朝、ちゃんと大丈夫?」


「……ああ、その事ですか」


一樹はフッと頬を緩めた。


「大丈夫ですよ。ドイツではわたしも一緒に住んでいますし、朝はちゃんとわたしが起こしています」


「起きるの? 前、全然起きなかった。3時半に起こしたのに……」


「それは少し早過ぎますが……起こすにはちゃんとコツがあるんですよ」


「コツ?」


「おいしい朝ごはんです。匂いにつられて、たまに一人でも起きてきますよ」


「……へえ」


「まったく、そこは変わらないですね。昔は両親が共働きでしたので、よくわたしが料理を……。彼はわたしの作るご飯が大好きで——」


微笑みながら一樹は喋る。


「……そうなんだ」


たまに頷きながら、あたしは耳を傾けた。
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