SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「あっぶねっ……」
引き寄せたまま、透は逃げた自転車を睨みつける。
「おまえ大丈夫か?」
すぐにあたしに視線を移した。
「……あ。 ……うん、」
急に透との距離が近い。
すると、何故かドクンと心臓がはねた。
……う、ん……?
「……ああ、わり、」
透がパッとあたしを離す。
「…………」
「つーか、やっぱおまえおかしいぞ」
「……え?」
「何か悩んでんならオレに言えよ」
「べつに、なにも……」
「ウソつけ! さっきまで上の空だったくせに!」
怪訝な顔で透はあたしを見下ろした。
「……あ。えっと、」
「この間も言ったが、オレだって少しは分かるようになったんだ。
そりゃあ、アイツ……湧人みてえにはいかねえが、おまえが何かおかしい事ぐらいは分かる」
「…………」
「なあ、一体どうした?」
まっすぐ見つめるその瞳……
「……うん、実は……」
あたしは透に話し始めた。
「さっき、イヤな夢を見たんだ」
「……夢? なんだ夢の話かよ! つか、授業中寝てんじゃねえ!」
「でも、それがすごく悪い夢だったんだ。みんな傷だらけでかわいそうで……」
「……は?」
「夢だけど夢じゃない、あたしにとっては本当で、だって見てきた事だから」
「…………」
「分からなかった、階段じゃなかった。あたし犠牲の上を歩いてた……」
「…………」
困惑したような表情……
眉根を寄せ、透はぐるりと視線を動かす。