SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

"ブウン! ……バシャ!"


一台の車が水を跳ね上げ平然と横を過ぎていく。

泥水のついた腕と足……

いつの間に黒木は治したのか、あったはずの傷がない事に、今頃あたしは気が付いた。


なんだ……治さなくても良かったのに……


むしろ、ずっと傷のままでいたかった。


あれよりも、もっと、さらに深い傷がいい……


心も体もズタズタに、息も心臓も止まるぐらい、もっともっと傷だらけになって……


いっそ、消えてしまいたい……



————あたし、なんで生きてるんだろう



「……はあっ、」


息苦しい……


なんだか頭がクラクラする


ひと気のない民家の石垣に身を寄せる。


頭を抱えて座り込んだ……



「……うう、 ……はあ、」


満月でもないのに


こんなに胸が痛くて苦しい……


まぶたには透と薫、二人の顔が浮かんでいた。


——“ Blue doll ”


あたしはBlue dollだ。

もう違うとは言っても、犯した罪の数々は、けして消えはしないのだ


——“ 犯罪者 ”


——“ 人殺し ”


それらが胸に突き刺さる。


……ああ、 そうか……


最近のモヤモヤの原因はこれだったのだ。


透と薫のお母さんはBlue dollに殺されている。


あたしはきっとその罪を、どこかで感じていたのだろう……


「……ううっ、」


目から涙が溢れてくる。

唯一あたたかなそれは、いくつもいくつも流れては雨に紛れて消えてゆく……


"……ザアアアアア!!"


雨はさらに強くなる。

どんなに体は冷たくても、やっぱり体は震えなかった。
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