SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
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"……チチ、チュンチュン……"


翌日、雨は上がっていた。

冷え込んだ早朝……

辺りは霧が立ち込めて、景色があまり見渡せない。

そんな中、あたしはのろのろ歩いてる。

まだ湿ったままの服や髪が重く体にまとわりついた……


“ どうにかなってしまいたい ”


昨日の思いとは裏腹に、どうにもなっていない現状が余計気分を暗くする。

あんなに雨に濡れたのに、今も体は冷たいのに

どうして何ともないのだろう……

こんな時、普通は熱とか、風邪をひくとばかり思っていた。


「……はあ、」


ため息をついて立ち止まる。

気付いて辺りを見回した。


……いつの間に……


遠くへと歩いてたはずなのに、見慣れた景色がそこにある。

目の前にはハンカチの木の屋敷。

どうやら無意識にここへ……この町へ、また戻ってしまったようだ。


——タン、


分厚い門をよじ登る。

引き寄せられるように、あたしは中に潜り込んだ。


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「…………」


ついこの間まで、たくさんの葉っぱで覆われていたのに……

もう冬支度を始めているのか、ハンカチの木は葉もまばらに、木全体が白っぽい。

あたしは、長い岩に腰かけながら、じっと木だけを見つめていた。
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