SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


"……ブロロ……キキッ……"


しばらくすると、静かだった朝に少しずつ雑音が混ざり始めた。

これからみんなの新しい一日が始まるのだ。


当たり前の普通の朝……


何も変わらないありふれた日常……


今のあたしには遠い世界……


目には見えない境界線があたしと世界を隔離した。


……と、


——ガサガサッ!


ひときわ大きな音と共に瞬時に空気が張り詰める。


「……みくっ!」


声が背中を直撃した。


……!

知った声に振り返るのを躊躇する。

すると、


「良かった見つかって!」


湧人があたしの正面に回り込んだ。

乱れた息、安堵した表情、

銀の瞳があたしを見つめる……


「すごく心配した……今までどこ行ってたの?」


問いかけにすぐに言葉が出てこない。

どうして……


「……!」


疑問と同時にハッとする。

すぐに顔を横に背けた。


「……みく?」


湧人は知らないのだ。

あたしが……

あたしが…………


自分が何者であるか、その事実が湧人を汚してしまいそうで、出来るだけ遠ざけようと試みる。


「……すごく冷たい……」


……!

湧人があたしの手を取った。

温もりを移すように手全体を包み込む。


「……ごめん」


ポツリ、湧人からそんな言葉がこぼれ出た。
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