SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……オレ……」
意識がうしろの声に向く。
「オレが見てるのは今のみくだ。昔の事なんて知らない」
「…………」
「 “ ちゃんと見てほしい。いいか悪いか自分でちゃんと。決めるのは湧人の目で確かめて。みんな悪い言っても湧人はちゃんと ” 」
「……?」
「……覚えてる? 前にみくが言った言葉。あの時、肩書きだけで人を判断したオレに……」
「 ! 」
瞬間、ある夏の日が蘇る。
あれは……そうだ、
ご先祖さまたちをあの世へ送った早朝の事……
「だから、これからはちゃんと自分の目で見て確かめるって決めたんだ。どんな人物か、信用できる人間かどうか」
「…………」
「オレはちゃんと見てきたつもり。だから分かる……みくは悪い人間じゃない!」
途中、声を震わせながら……
それでも湧人は言い切った。
「…………」
——タ……
近付く足音。
「……みく……」
視線をずらすと湧人の顔が映り込む。
見上げる瞳は切なくて、うっすら涙が浮かんでいた。
「……帰ろ?」
ほんの少しだけ微笑んで、湧人は再び口にする。
「…………」
これが、いいかどうかは分からない。
でも……
「……うん……」
口からは素直な言葉がこぼれていた。
今度は一緒に歩き出す……
繋ぎ合わせた湧人の手は、やっぱりとても温かかった。