SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……なぁ、」
どうにか気持ちを奮い立たせ、透は薫に呼びかける。
今の今まで、全く喋らなかった訳ではないが、ちゃんと記憶していない。
それもそうだ。お互いが自分の殻に閉じこもり自問自答をしていたのだ。言葉は独り言となっていた。
「……なに……」
少し遅れて返事が返る。
感情のない声……
それでも返事がきた事に透は少し安堵した。そして、たぶん——と推測する。
「……やっぱオレ……」
薫の様子を気にしながら、透はそれをぶつけてみた。
「どうも腑に落ちねえ。いくら考えてもアイツが……そんな悪者とは……」
「…………」
「いや、Blue dollだとしてもだ。何かよっぽどの事情が……あったんじゃねえかって……」
それは悩みに悩んだ末の考え……
声にすると、より思いは強くなった。
「……事情……」
ゆらり、薫の瞳が揺れ動く。
——やはり……
透は確信した。
薫もまた、完全に絶望している訳ではない。自分と思いは同じなのだ。
残酷な真実にどんなに心が傷付いても、どんなに嘆き苦しんでも、思い出が胸にわだかまる。
美空と過ごした日々の記憶が、彼女を悪には出来なかった。
————信じたい……
次第に胸がざわめきだす。
複雑な状況にありながら、心は希望を求めていた……