SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「美空はキミたちの悲しむ顔も見たくなかった。サヤの事が大好きだと言って抱き締める……そんな二人の姿を見て、自分もサヤを好きでいる、そう心に決めたんだ」
「……そ、んな……」
「……あ、 ああ……」
二人はその場に崩れ落ちる……
「……ひっでぇ、オレ……」
「……なんて事っ……わたし、美空にっ……美空にっ……うわあああ〜っ!!」
引き裂かれるような胸の痛みに声を上げて泣き出した。
「すまない。もっと早くに打ち明けるべきだった……僕のズルさが、意地がそれを遅らせた。
馬鹿だよな、勝手に美空の……過去の実力なんか妬んだりして。
だから異変に気付いても、最初はいい気味だなんて酷い事を。このまま見過ごした方がチームの為だと正当化して……
だが、やはり無理だった。
僕は誰よりも強く感知する。美空の悲しみを、痛みや苦しみを、心の……闇までも……」
弘和は声を震わせる。
堪えきれず零れた涙は床にポツポツ染みをつけた。
「……っ……ミクぅぅううっ……」
「ごめんなさいみくっ……あああ〜っ!!」
「僕もサヤと同罪だ……全ては自分の保身の為に、美空を……!」
言いながら弘和はサヤを睨む。
サヤは顔面蒼白だ。
わずかに唇を震わせて、悲しみに暮れる二人の姿をオロオロしながら見つめている。
「……あの、誠兄さま、ユリ姉さま……」
「お前の顔は見たくないっ!」
「今すぐここから出て行って!」
「そんな、わたくし——」
「——来るんだっ!」
まだ何か言いたげなサヤを制止して弘和が腕を掴み上げた。
そのままズルズル引っ張ってゆく……
「……なっ、離してっ!」
「だめだ! これからキミは本部に戻りすぐに勉強し直してもらう! リーダーとして、僕がその歪んだ根性を叩き直す! それが美空への……せめてもの罪滅ぼしだ!」
「……ちょっ、やめっ……」
嫌がるサヤを弘和は強引に連れ出した。
「……っ……ミク、ミク……」
「……ああっ、……うううっ……」
リビングに響く二人の声。
その悲しみと後悔はどこまでも深く、地の底にまで沈み込んだ……