SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「けど……いや、それだけじゃ……」
透は何かに気付いて首を動かす。
「さっきも見なかったか……アイツ」
「……え?」
薫は進行方向に目を向けた。
見ると一台の自転車がこちらに向かって走ってくる。乗っているのは、いわゆる “ オネエ ” だ
長い巻き髪に赤い花柄の服を着て、顔はバッチリメイクが施されている。それでも隠しきれない濃いヒゲが男なのだと認識させた。
夢中で走っていた為、あまり人や周りの状況が見えていなかったが、この人物は——、
「……っ、」
すれ違いざまに目が合って、薫は息をのみこんだ。
風に混じる香水の匂いが記憶の断片をつかまえる。
————おんなじだ……
男も、匂いも、目が合った瞬間も
状況が記憶とまったく一緒なのだ。
「それだけじゃねえ……アイツも」
透はもう一人にも覚えがあった。
これから部活の朝練なのか、眠そうに歩くジャージ姿の中学生……
「……なんか、おかしくねえか……」
透の言葉通り、何かがおかしい事ぐらい、薫もすでに分かっていた。
しかもそれを認めると、更なる疑問が湧いてくる……
「何度も……繰り返してる気がする。オレたち、同じ事……さっきからずっと……」
「……っ、」
それはたった今、薫も感じた事。
“ 何度も繰り返してる ”
そう、二人は繰り返しているのだ
同じ場所、同じ時間を、何度も何度も……