SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……みく…… 」


黒木の目に涙が浮かぶ。


「……黒木?」


黒木はバッと目をそらすと顔を上に向けた。


「 黒木。どうしたの?」


黒木はグッとなにかをこらえるような表情だ。


「 はああ~、まったく……オマエはどうしてそんなに強いんだあ?」


黒木が両目をゴシゴシこする。
緑色のジャケットにほんの少しシミがついた。


「 フツ~、あんだけのコトがあったらよお、立ち直れないっつ~か、生きるのだってシンドイっつ~か? それでなくたってえ、世の中、テメエの運命に耐え切れなくなって、みずから命を投げ出す奴だって、いるんだぜ? なのに、どーしておまえは…… 」


「 みくびらないで 」


あたしは黒木をまっすぐ見て言った。

またも黒木の動きが止まる……


「 難しいこと、分からない。でも、逃げない、あたし。殺されたみんなの為、強くなるの 」


「……っ、」


また黒木が涙ぐむ。


「はああ~。ホンっと、おまえってやつは…… 」


いつもの、ヘラヘラした黒木はもういなかった。
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