SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……っ! ……えっ、 ……あっ、」
また湧人の顔が赤くなる。
変に息をのみ込んで、パッと横に顔をそらす。
「昔、お父さんとお母さんがチュッてしてた。それで、お母さんが言ってたんだ。キスは好きな人同士がするものだって、だから——」
「——違うからっ!」
一瞬、湧人がこっちを向いた。
でも、またすぐにそらされる……
「……あ、あれはっ、事故っていうか……」
「……事故?」
「だから……おまじない、みたいなもんだよ」
「……おまじない?」
「そうっ! ケガや病気が早く治って……元気になるおまじない!」
少しムキになったような湧人が、何もない所から、何かをむしり取って投げている。
「……それよりっ、喉渇いてない⁉︎ 待ってて、今何か飲み物持ってくるから!」
バタバタと慌てて部屋を出て行った。
「……おまじない……」
残された部屋であたしはぼんやり考える。
そういえばお父さんもお母さんも、確かにあの時、元気じゃなかった。
お互いケンカしてて落ち込んで……
でも、チュッてしたら元気になって……
……あ、お母さんは包丁で指も切ってたっけ。
「なんだ、そうか、おまじない……」
あたしは妙に納得する。
なんとなく天井を見上げると、視線がそこに釘付けになった。