SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……はあっ、はあっ、」


あたしは満月が苦手だった。
それはさまざまな形であたしを蝕むから……

“陰”と“陽”の性質だと一樹は言った。

あたしの中で混ざり合うプラスとマイナス、二つの“気” のせいだと……

普段は調和しているソレが、満月の何らかの力がそのバランスを崩すらしい……

満月の夜はプラス、マイナス、どちらかの性質があらわれた。


「……っ、」


それが、“プラス” ならまだいい。

力がみなぎり、何か破壊したい、攻撃したいという衝動には駆られるけど、自分を見失う程ではないから。

凶暴的な衝動はトレーニングで体を動かせば、なんとか抑える事が出来た。

問題はそれが“マイナス” だった場合……

あたしはある記憶たちと、嫌でも向き合わざるを得なかった……


"オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛~"


地獄の底から這い出たような、低いうめき声が聞こえる。


……ああ、今日は完璧……


……マイナスだ……

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