雪に塩
「駄目ね、電話の類が無いわ。」



そう広くない部屋だったので、淡い希望はすぐに打ち砕かれた。



窓はあるものの2階以上で、さらに面しているのは交通量の少ない道路、


部屋の中には2人掛けソファーが2脚とその間に机が1台、


出入口壁際に造花を生けた小さな花瓶が乗ったキャビネット、


そして出入口には外から鍵、とその全てが絶望的である。



「…!音、…車?でも1台じゃない……?」



鍼蔑が戻ってくる前に、もう一度考えなくては。



そう思っていると早くも車の音が聞こえ、しかもそれは複数だった。



少なくとも1台は鍼蔑だろうが、まさか仲間とかを連れて来たのだろうか?



そうなると鍼蔑の『お家』に直行は確実で、もう望みが無い。



「杠ぁぁあぁ――!!」


「ショー!」



「待てっ!!」


「靱さん?!」



数人のドタバタする音と、炒市と靱の怒鳴り声が聞こえてきた。



バンッ、バンッ、ガチャンッ!!!



「はあはぁはぁ………、何なんだあいつらっ!!」



乱暴にドアを開け、そしてすぐさま閉め、暴言を吐く鍼蔑。


それでも、ドアの鍵をかけることだけは忘れない。
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