雪に塩
「はーい、おまちどおさま~」



杠が案内されたのは、炒市達の行きつけで昼は喫茶店をやっているスナック恋粕(コハク)。


ママの狩芸鞠畭(カゲイ キクヨ)は、自慢のカレーを振る舞う。



「うんっま!」


「うん、いつも通りの味だ!」


「ウマイだろ?」



カレーにパクつく3人に、鞠畭は何か言いたそうだが。



「美味しい。……もしかして、チョコレート、入ってませんか?」


「そうよ!分かってくれる子がいて良かったわ~!」



常連客から貰った海外土産を、隠し味にと使ったらしい。



「まじ?全然分からなかった。」


「見えない分、舌が敏感なんです。後、耳とか鼻とか、手とか。」



杠は目が見えなかった。


生まれつきの弱視だったが、7年前事故に遭い、その時の怪我が原因で全盲となった。



出かける時の頼りは、もっぱらこの白杖だ。



「今は大学生なの?」


「いいえ。クラブとかでピアノ演奏してます。」



「ピアニストなんだ。かっこいい!」



「ありがとう。今度聞きに来て。」


「ほんと?行く行く!」



舞い上がる邃巷を、杠以外の一同は冷ややかな目で見ていた。
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