雪に塩
「ユーハちゃん!」


「じ、ん、さん……!」



「もう大丈夫、大丈夫だから。」



大きな音がした後、自分を呼ぶ声に強く抱き締められる。


よく知った匂いと体温に、堰を切ったように杠の目から流れる温かい涙。



「大丈夫…、大丈夫……。」



靱は大丈夫と繰り返し、杠の背を優しく撫でる。


杠がしゃくりあげる度に、靱は身体の一部が抉られる様な気がしてならなかった。



「(ったく……。オイシイとこ持って行きやがって…)」



ドアの下敷きになり気絶している鍼蔑を見ながら、炒市もホッとする。


渾身の力でドアを蹴り破ったのは他ならぬ炒市。


中学の頃は不良として名を馳せていたこともあり、火が付けば歳上の靱より力を発揮する。



「(しゃーねぇ。杠の為だ、警察呼ぶか。)」



不良でいたおかげで警察嫌いの炒市は、杠の居所が判明した時自ら駆け出した。


だが、杠を傷付けた鍼蔑がこのまま大人しくなるとは思えない。



やはり、警察に引き渡すべきだろう。



「(これで恩が返せたとは思わねぇから安心しろよな。)」



あの時と同じく外は暗く、しかし降るは冷たい雨でなく煌めく星だった。
< 32 / 45 >

この作品をシェア

pagetop