雪に塩
「俺はさ、杠に命を救われたんだよ。」


「命を…?」



炒市が口にしたのは、命というかなり意味が大きなことだった。



「中学ん時俺は不良だった。杠に絡んで来たヤンキーに喧嘩ふっかけられて買ったら、そこが工事現場で。やってる内に立て掛けてあった鉄パイプに体が当たって倒れて来たんだ。けど、鉄パイプは俺には当たらなかった。杠が俺を突き飛ばして助けてくれたんだよ。」



不良で他人に迷惑をかけていた自分が、たった1度だけした気まぐれな善行。


その時の炒市にとってただヤンキーが気に食わなかっただけだとしても、杠にとっては炒市は不良であっても良い人だった。



「ユーハちゃんの言ってた事故っていうのは、そのことか?」


「うん。俺が杠の視力を奪ったんだ。けど、杠は俺を責めなかった。それどころか、俺が怪我しなかったかって心配してさ。」



泣いたであろうことは赤くなった目を見たら一目瞭然なのに、杠は炒市が生きていて良かったと笑った。



「だから俺は救われた命、大事にしようと思った。不良も止めて学校行って。」



不良仲間と縁を切り、努力の甲斐あり苦学生ではあるが大学に通えるまでに学力は上がった。
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