雪に塩
「私はまだ人生で誰も亡くしたことがない。でもあの時、ショーに怪我が無くて本当に良かったって思ったの。」



炒市が怪我無く生きていたことだけが、あの時の杠にとって唯一の救いだった。



「弱視だった頃も、目が見えるということがどれだけ幸せなことか分かってた。全盲になって、それが余計に感じるようになった。でも…。」



‥‥亡くすのは怖いけど、‥‥



「全盲だからこその幸せもあるって、気付かされたわ。」



‥‥私だって色々やりたいことがたくさんある。‥‥



「靱さん。私は、迷惑を、かけるわ。面倒、だってあるはずよ。だけど、」



‥‥出来ることは限られてしまうけれど。‥‥



「私は、靱さんと、生きていきたい。だから………、だから私と……」



‥‥このお願いは、きっと誓いと変わらない。‥‥



「私と生きてくれませんか?」



こちらを向いた2度目の泣き顔は、恐怖ではなく不安そうに歪んでいた。



「ユーハちゃん……。」



林残の仲間と。


恋粕で炒市達と。



支え合いながら、2人で。



「一緒に生きていこう。」



優しく握られた両手は、凄く安心する体温だった。
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