雪に塩
「ううん、引き離してくれたでしょう?」


「そのくらいは……怖い思いさせてごめん。」



「大丈夫。靱さんの声が聞こえたから全然怖く無かったよ。」


「そっか……でもほんと怪我が無くて良かった。」



靱の不器用に笑う顔は見えなくても、杠には声と雰囲気でその優しさは伝わってきて。




‥‥笑い合う2人を、陰から見つめる1つの影。



コスモスで芽生えたのは、似つかわしくない乙女心。


ブーゲンビリアのフィルターで、いつしか君しか見えなくなった。



クロッカスを手に貴女を待っている。


ドクニンジンの様に死も恐れない愛を胸に。



人知れず思いを募らせていく。‥‥




「もう少しで終わるから待っててくれるか?送る。」


「毎回送ってくれなくても今は大丈夫なのに。…でも今日もお願いします。」



酔っぱらいや杠を知らない客引きのせいで、林残に来た頃は大変だった。


今は杠の知名度も上がり酔っぱらい以外は大丈夫なのだが、靱と帰ることが今も習慣になっている。



あまり喋らない靱との穏やかな帰り道が、杠の密かな楽しみになっているのを、きっと靱は知らないだろうなと杠はこっそり思った。
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