心外だな-だって世界はこんなにも-
母さんは結局、看護婦が病室を出て行くまで、ずっと頭を下げ続けていた。よくやるものだ、まったく。
「まったく。聡ちゃんは、どうしてそうなの?」
俺は本をパラパラとめくりながら、「何が?」と訊いた。
「そうやって、不貞腐れて、可愛げのない。」
「普通にしてて可愛げある高校生なんて、異常だって。」
「またそんな屁理屈言う。そんな態度じゃ治るものも治らないわよ?」
「病は気からって? 母さんは考え方が古いんだって。んなもん、迷信。」
「そんなこと言わないの! ……はあ、それじゃあ母さん、仕事の時間だから。いい? 先生たちに迷惑かけないようにね? わかった?」
「はいはい。」
俺に負けないくらいのため息をついて、病室を出て行った。
母さんは、来て欲しいと頼んでもないのに、こうして毎朝、必ず仕事前に顔を出す。
過保護もいいところだ。子離れができない母親ほどみっともないものはない。