心外だな-だって世界はこんなにも-
母さんとすれ違うような形で、今度は、大柄で坊主頭の男が点滴台を転がしながら病室に入ってきた。
彼は俺の隣のベッドの男で、確か伏見と言った。推定年齢40歳前後の立派なおじさんだ。
伏見さんがベッドに腰掛け、それから俺とのベッドとを隔てているカーテンからニョキッと顔を出した。
「よお、坊主。元気か?」
寂しいのか、この人は暇があるといつもこうやって、カーテンから顔だけ出して、俺にやたらと話しかけてくる。ウザい。
「おーい、坊主? 元気かー?」
「元気だったらこんなところにいないですよ。」
伏見さんは「そりゃそうだ。」と言って笑いながら、ビニール袋の中をごそごそと漁った。きっと、この病院内にあるコンビニで何か買ってきたのだろう。
その袋の中からスルメを取り出した。
「よお、これ食うか?」
「……いらないです。俺、絶食中なんで。」
「そうかー、それは悪いことをした。」
ちなみに物覚えも悪いらしく、これと同じやりとりをかれこれ3回はしている。
「じゃあ、これ飲むか?」
今度は袋から缶ビールを差し出してきた。病院にお酒なんか売っているのだろうか。
「俺、未成年ですよ?」
ちなみに俺が18歳の高校3年生だということも彼から訊かれて、話している。
「じゃあ、これ吸うか?」
煙草を差し出してきたところで、耐えきれず。点滴台を転がし、空いたほうの手で本を持って、病室を出た。
「おーい、坊主! 冗談だって! すまん!」と背中で伏見さんの声がしたが、うるさい。無視して歩いた。