心外だな-だって世界はこんなにも-





彼女は、俺の方を見ている。それも、さっきまでのチラチラとは違う。まるで、俺に話しかけているかのように、しっかりと俺を見ながら……いや、睨みつけるようにして電話している。



「ねえ、退けよね! わかるー! 退けってね!」



しかも、このさっきから多用する「退け」という言葉。これは一体、何を意味しているのだろうか。俺はベンチに座って本を読んでいる。彼女は「退け」を連呼している……ああ、そういうことか。



「どーけ! どーけ! どぉぉぉけぇぇぇぇ!!」



もはや耳からスマホを離して、俺にぶつけるように叫んでいる。やれやれ、困った。関わりたくないと思っていたが、致し方がない。



「おーい、キミ。」



俺の問いかけに彼女はいかにもだるそうに首を傾げた。



「うるさいから、あっち行ってくれないか?」



これで手をひらひらと扇いで、「しっしっ!」とでも言いたいところなのだが、さすがに初対面の女の子にそれはできないので、やめた。



いや、やっていたほうがよかったかもしれない。



彼女はピンク色したスマホをその場に落とし、物凄い形相で俺に詰め寄ってきたのだ。




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