心外だな-だって世界はこんなにも-
「あのー! そこ、私の特等席なんですけど!」
彼女の言っている意味がわからない。わかろうとしないんじゃなくて、純粋にわからないのだ。
「はあ? なんだよ。特等席って。」
すると彼女はもう一歩、大股で詰め寄ってきて、
「ここは私がいつもこの時間、使うところなの。だから、はい退いて、退いて!」
そう言って、俺の腕をグイグイと引っ張った。か細い手で、風向きのせいか、シャンプーのいい香りが漂ってきて、鼻を癒した。顔もよく見ればそこそこ美人で、思わずドキッとしたが、この状況だ。無茶苦茶な言い分。おまけに腕を引っ張られて、これでは、黙っているわけにもいかない。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
「何か?」
「あのなー、ここは公共の場だぞ?」
「だから?」
「だから、みんなで使うもんだろ。誰のものでもない。」
彼女は俺の言い分を聞いて、腕を引っ張ることはやめたが、納得はしていないようだった。