心外だな-だって世界はこんなにも-
彼女は多分、俺と同じ入院患者だと思う。紺色のカーディガンの下には、パジャマを着ているし、入院患者の印である、名前の書かれているバンドを左手首に巻いている。
このバンドが巻いてあるということは、間違いなく入院患者なのだが、どうも俺にはそれを断定できなかった。
それは俺と違って点滴台を持っていないこともそうだが、顔色が悪い様子もなく、どちらかというと、普段の俺よりも元気そうだったからだ。足を引きずっている様子もなく、怪我での入院でもなさそうだった。
本当に入院患者なのか? もしかすると、彼女の言う、「特等席」で死んだ幽霊なのかもしれないと思った。しかし、昼間に出る幽霊がいるだろうか? そもそも幽霊の方から生きている人に向かって話し掛けてくるものなのか?
頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。そのクエスチョンマークが雨のように降り掛かってきて、腹が痛い。
「ねえ、キミ、入院患者だよね? どこが悪いの?」
そう彼女から訊かれ、俺は答えることができなかった。これを答えてしまうと、その患部を呪って、俺を殺そうとするんじゃないだろうかという、馬鹿げた妄想のせいだった。
しかし、この世の中は馬鹿げたことだらけだ。馬鹿げたこの世が通常ならば、この馬鹿げた妄想も通常になる可能性は高い。