心外だな-だって世界はこんなにも-
「関係ないだろ。」
いかにもめんどくさそうにそう答えると、彼女は急に顔色を変え、口元に手を当てた。
「……まさか、がん?」
「違う。」
「ふーん。なーんだ。」
彼女は、いかにもつまらないといった感じで、足をぶらぶらさせて、頭の後ろで腕組みをした。
「『なーんだ。』とはなんだよ。まるで人ががんだったら良かったみたいに。」
「別に。ただ、点滴台転がしていかにも病人ですって感じだったからそう思っただけ。」
当たり前だ。ここは病院で、病院には医者や看護婦の他に病人もいるのだ。
「そういうお前はどこが悪いんだ?」
何気なく訊いたつもりだったのだが、彼女は烈火のごとく怒り出した。
「お前? 初対面のレディーに向かってお前とは何よ!」
うむ。確かにそれは俺が悪い。
「じゃあ、えっと、キミは……。」
「祭。」
「へっ?」
「名前! 前田 祭。」
前田 祭。そのとても綺麗な響きの名前を、俺ははっきりと頭に焼き付けた。