心外だな-だって世界はこんなにも-
兄貴は私の部屋に入ると、必ず私のベッドの上でうつ伏せに寝転ぶ。そして、クンクンと枕の匂いを嗅いで、何とも幸せそうな表情を浮かべる。カピバラのようにも見えるし、猫が欠伸したときのようにも見える。
今日も例によって、その幸せそうな表情を浮かべていて、私も例によって、そんな兄貴のお尻を思いっきり蹴ってやった。
「こら! 妹の枕に顔埋めるな! 気持ち悪いだろ!」
「つれないな、美紀ちゃんは。美紀ちゃんが小っちゃかった頃なんて、よくお兄ちゃんの布団に入って来て、『お兄ちゃん、一緒にお寝んねしよー!』とか『美紀ね、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの!』とか言ってたのになあ。ああ、あの頃の美紀ちゃんは一体どこへ……あれ? 美紀ちゃん? おーい! 美紀ちゃんー!? どこー?」
兄貴は決まって、都合が悪くなると、私の小さい頃のことを引き合いに、自分の妹に対する偏屈した溺愛行為を正当化しようとする。
つい最近も、私がお風呂に入っている最中に、兄貴が『よお! 背中流してやるよ。子供の頃みたいにさ。』と仁王立ちの堂々たる姿で入って来て、洗面器で信じられないくらい顔面を殴ってやったばかりだ。
これで兄貴に彼女でもできれば、少しは私に対する興味も薄れるのだろうが、生憎、兄貴は彼女を作ろうとしない。というか、一人の女を愛そうとしなかった。
常に、8人は女をキープしていて、「あと一人作って、その女たちで野球させるのが、お兄ちゃんの夢なんだ!」と常日頃から言っている、やばい奴。
女をアクセサリー感覚で捉えていて、そんな兄貴のことを好きになる女も女だが、一体この男は何様なんだろうと思う。