心外だな-だって世界はこんなにも-





私の夢は小説家になることだ。



いや、違う。私は小説家にならなければいけないのだ。



就職活動に失敗し、途方に暮れていた時、幼稚園のアルバムに書いてあった夢。



人を笑顔にさせる仕事。



就職できなかった以上、幼き、藤代美紀ちゃんの夢を叶えてあげるためには、小説家か漫画家になるしかないと思っていた。絵は下手だ。ならば、小説家になればいいじゃない。



そんな安易なきっかけから、5年間こうして部屋にこもって、寝る時間を削って書いてきた。



しかし、どうやら私には才能がないらしい。



ある程度まで書けると、一度読み返す。しかし、どこか気に入らなくて、破り捨てた。紙吹雪が作れるくらい、細かく細かく破り、桜の花びらの舞う様に部屋中に吹き飛ばした。



それから軽く掃除をして、また机に向かう。ペンを走らせる。そして、ある程度書けるとまた読み返す、また破り捨てる。その繰り返しで、文学賞に出すどころか、原稿の形にすらなったことがない。



「美紀ちゃんさー、一体いつになったら完成するんだ? お兄ちゃん、美紀ちゃんの小説、結構楽しみにしてんだよ?」



「完成しても兄貴には見せないから安心しろ。」



「つれないなー、美紀ちゃんは。まあでも、美紀ちゃんが何かに対して本気になったのって初めてだもんな。スイミング、ピアノ、乗馬に、日本舞踊。どれやっても長続きしなかったもんな。まあ、そのおかげでお兄ちゃん、どれもできるようになったけど。」



私は言いたかった。「何始めても兄貴が絶対ついてくるからだろ!」と。




< 5 / 255 >

この作品をシェア

pagetop