心外だな-だって世界はこんなにも-





「それじゃあ、今日は2本、取らせてもらってもいいですか?」



この看護婦のマニュアル化されたような決まり文句にもいい加減、うんざりしてきた。本数のところだけを取って変えたような言い方で、ユーモアもなければ、文学染みてもいない。つまらない。



まるで、新学期から始まる学園ドラマを見ている気分だ。きっと低視聴率でどうせワンクールもたず、9話くらいで終わってしまうだろう。思わず欠伸が出る。



「ねえ、取らせてもらってもいいかな?」



「……ここでダメって言えば、本数が減るんですか?」



俺の言葉に母さんは、すかさず「聡ちゃん!」と叱責し、顔色を変えて看護婦にペコペコ頭を下げる。



本心では、悪いなんて思っていないだろうに。どうせ、ここで俺を怒って、それから謝ることによって、自分を正当化しようとしているだけ。世間体を気にしてるだけだろう。くだらない。



「あ、いえ。アルコール消毒のかぶれとかないですかー?」



「……5日目なんだからもうわかるでしょう。」



「聡ちゃん!」



「それじゃあ、ちょっとチクッとしますねー?」



「昨日の看護婦さんの時は痛くなかったですけどね。自信がないなら、自信つくまでやめてもらっていいですか?」



「聡ちゃん!」



「体調にお変わりないですか?」



「強いて言うなら気分は最悪。」



「聡ちゃん!」



「あ、昨日のおトイレの回数って何回でしたか?」



「あんたはいちいち覚えてんの?」



「聡ちゃん!」



「はい。じゃあ、上から5分ほど押さえてくださいね。またお昼に血圧測りに来ますね。」



「もう来ないでくださいと言える強い男になりたい。」



「聡!」




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