桜の再会〜妖たちの宴〜
人間よりも強い力を持ち、時に世界の秩序すら乱しかねない妖の存在は、人には知られてはならないものだ。
故に妖たちの間では、自らの存在を人間に知られることを禁じている。
知られてしまった場合は、それができる妖に頼んで記憶を消してもらうしかない。
だが中には、鬼と呼ばれる、妖の中でも最下位に位置する階級の輩がいる。
鬼は人の血肉を好み、嗜好とする。
例え自らの存在を知られようと構わず、ただ欲のままに人を襲う者たちが数多くいるのだ。
ーーーー特に、夜の帷(とばり)が落ちた、闇夜の中では。
人間界と妖の世界の境界があやふやになる時間。
夜明けや夕暮れ時を、逢魔が時(おうまがとき)と呼び、力のない妖たちはその時間にしか人間界に行くことは出来ない。
そしてその時間を狙い、鬼たちは人間を食い荒らそうと暴れだすのだ。
そして、そんな妖たちを容赦なく切り捨て、制裁を下すのは、何万という妖を束ねる妖の長の役目であった。
古くから続く、由緒正しい妖狐の家系の跡継ぎである李桜は、幼い頃よりその役目を負っていた。
そして、李桜の家系に古くから使えてきた護衛役の一族がある。
桜の精の一族であり、一族の者はよほどのことがない限り、妖狐の一族の護衛に付くことが、代々の習わしだ。
桜紅は、まだ李桜が長として就任する前から、李桜の護衛役として李桜のそばにいた。
だから知っているのだ。
李桜が同族に制裁を加えることを、どれだけ苦痛に思っているかを。
子供の頃から感情表現に乏しく、明るいとは言い難い性格だった。
だが無愛想な中に優しさがあることも、不器用な中に一生懸命さがあることも、桜紅はすべてわかっていた。
何百年と共にいるのだから。
しかしそれでも、長としての役目を放棄することは出来ない。
統率をとる者がいなくなれば、妖たちの秩序はたちまち崩壊し、人間界にも影響が出る。
そんなことになれば、妖の居場所はどこにもなくなってしまう。
李桜の優しい性格故に、そんな事態には決してしないだろうという思いも、桜紅にはあった。
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自室で物思いにふけりながら、桜紅は苦無(くない)の手入れをしていた。
桜の精と言っても、特別な力がある訳では無い。