桜の再会〜妖たちの宴〜
だが李桜は常に妖たちの様子を見るのを怠らないし、桜紅も李桜に及ぶ危険を見逃すことは決してない。
主人と護衛という関係は、ふたりの強さをより強靭なものとしていた。
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海の潮風が頬をなぶるように吹き付ける中、そこは、
ーーーーまさに地獄絵図だった。
妖という妖が殺し合い、殺され合い、異形の屍が数多(あまた)転がっている。
あるものは屍をむさぼり、あるものは狂ったように殺戮を繰り返す。
思わず眉をしかめる桜紅だったが、李桜は無表情のまま静かに刀を抜いた。
ーーーシャインッ………ーーー
かすかな抜刀音。
だが、澄み切ったその美しい音色は、ーーー妖の長たる者の威厳と貫禄はーーー、無秩序に殺し合っていた妖たちの動きを、まるで嘘のようにピタリと止めた。
西洋妖怪たちまでもがその動きを止め、李桜が発する圧倒的な存在感に呑み込まれている。
「り、………李桜……様」
妖の中の誰かが、震えた声で呟いた。
だが誰でもおかしくはないだろう。
何故ならその場にいた全員が、李桜の発する圧倒的な妖気に呑み込まれていたのだから。
李桜は音もなく、闇の中を滑るように進むと、紫玉色の瞳をすうっと細めた。
「貴様か。この争いを仕掛けたのは」
「ふっ、お前がここの長か。………獣臭い野狐が」
李桜の眼光をものともせず受け止め、不敵に笑って見せた男。
だが男が発した李桜を侮辱する言葉に、桜紅の腸が煮えくり返る。
李桜のことを何も知らないくせに、李桜の本当の姿なんて、知ろうともしないくせに。
そんな輩は、李桜の目に触れさせる価値もない。
桜紅は静かに戦闘態勢に入り、いつでも李桜を守れるように身構えた。
「私はいずれ世界を制する。全ての妖を束ねる王になるのだ! この小さな島国では少々物足りないが、まずは腕慣らしということで」
全身を黒で固めた長身の男は八重歯を光らせて笑うと、紅茶色の瞳を光らせた。
「!?」
その瞳から真紅の光が李桜に向かって伸びる。
李桜が間一髪でかわすと、その光が当たった地面は焼け焦げ、えぐれ、異臭を発していた。
李桜が着地すると同時に、再び男は瞳を光らせる。