桜の再会〜妖たちの宴〜


李桜はすべてをかわしながら地を蹴り、男に向かって白銀の刃を振り下ろした。


だが男もするりとそれをかわすと、再び李桜に襲いかかる。



ーーー李桜様………!



助けたい。
だがこの鬼気迫る戦いの場に、今自分が入っては返って足でまといだと感じた桜紅は、拳を握りしめて2人の戦いを見つめていた。


幸い、他の妖たちは自分の戦いをやめ、長同士の戦いを固唾を呑んで見守っている。


もちろん、何か動きがあれば逃したりはしないが。


何も出来ない自分に唇を噛み締めていると、桜紅の元に一匹の妖がやってきた。


「桜紅様!!」

「……牛女」


桜紅が牛女(うしおんな)と呼んだのは、赤子を抱いた女の妖である。


水辺に現れ、人間に赤子を抱かせて、受け取れば巨大な化け牛となって襲うという妖だ。


牛女は焦ったように桜紅を見つめた。


「桜紅様、早く李桜様をお止めください!」

「……どういうことだ」


桜紅の問に、牛女は焦ったようにまくしたてる。


「あの者は吸血鬼、又の名をドラキュラという妖で、西洋では無敵を誇る大妖怪なのだそうです。噂によれば、卑怯なこともためらわぬ最低なやつだとか」


「吸血鬼……」


桜紅が呟くと、他の妖たちも次々に口を揃える。


「李桜様が危ない!」

「あやつは何をしてくるかわからん!」


ざわざわとどよめきたち、落ち着きをなくした妖たちに、桜紅はすうっと息を吸い込むと、一喝した。


「黙れ!!」


しんとする妖たちを見渡し、桜紅は闇夜の中でも妖しく輝く血色の瞳を煌めかせた。


「李桜様は負けぬ! 我らの長を我らが信じずに、一体誰が信じるというのだ!」


響き渡る桜紅の声に、妖たちは静まり返る。


本当は、誰よりも李桜を危険な目に遭わせたくないのは桜紅だ。

でも、それでも、李桜のことを信じることもまた、自分の役目だと知っている。


だから、信じていなければならないのだ。


だがその時ーーーーー、








「狐! これで貴様は終わりだ!!」


勝ち誇ったような吸血鬼の声に、顔を上げた桜紅が見たものは、李桜の胸を貫く赤い光だった。



「ッカハッ!!!」



李桜の口元から、鮮血が流れ出る。


「フッ、馬鹿な男だ。こんなやつのために」


李桜の背後には、腰を抜かして震える子供の妖がいた。
李桜は庇ったのだ。


「り……おう…さま」

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