桜の再会〜妖たちの宴〜
呆然と、桜紅の呟きがもれる。
目の前が真っ白になって、何もわからない。
どさり、と崩れ落ちる李桜の姿が、スローモーションのように流れていく。
「李桜様ああああああああああ!!!!」
桜紅の絶叫が、海辺にこだまする。
「貴様っ!! 絶対に許さない!」
桜紅は腰から乱暴に刀を抜くと、吸血鬼に向かって振り下ろした。
「おおっと。主人を殺され気が動転したか」
「黙れ!」
怒りに我を忘れても、桜紅の太刀筋は美しく、揺るがない。
完璧な体制で刀を振るうが、吸血鬼はいとも簡単にかわしていく。
「女」
吸血鬼はぱしりと桜紅の手首をつかむと、冷酷な美貌に笑みをたたえた。
「美しい剣だ」
ギリっ……と歯を食い縛る桜紅の顎にするりと手をすべらせると、吸血鬼は薄い唇で囁く。
「美しいものは…私のそばにいるのに相応しい。どうだ、あの主人から乗り換えるか?」
甘い声で誘惑する吸血鬼。
だが桜紅の心は、そんなものには微塵も動かされることは無かった。
「笑わせるな」
「………何?」
男の切れ長の瞳が見開かれると、桜紅は冷たく笑い返す。
ギラリとした血の色に、吸血鬼は思わずびくりとした。
「お前ごときのものになるほど、私は安くない。………私の主は後にも先にも、李桜様ひとりだ!!」
毅然(きぜん)と言い放つ桜紅に、吸血鬼はぞくりとした。
言い知れぬ興奮が、背筋をはい登る。
(この女を……私のものにしたい……!)
その衝動が確かなものとなった吸血鬼は、さらに口を開こうとした。
その時。
「桜……紅」
「!! 李桜様!?」
背後で李桜がゆっくりと起き上がった。
その息は荒いが、瞳は光を失ってはいない。
「……辛いだろうな。その傷はあやかしの治癒能力をもってしても、治すのに数日はかかる」
今まで自分だけを見つめていた桜紅の視線が、李桜に向いたことが気に入らなく、吸血鬼は憮然とした表情で言い放つ。
「李桜様、今行きま…」
「桜紅」
桜紅の言葉を遮ると、李桜は冷たく言い放った。
「護衛の契約は解除だ」
何を言われているかわからず、桜紅は呆然と立ち尽くした。
「李桜……様?」